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バ〜バくん
ぺっこらむ■「魔法はなくても世界は変えられる」

 

 今年のハーバード大学の卒業式で演壇に立ったのは、『ハリーポッター』著者のJ・K・ローリング氏だった。彼女は、世の中に出る世界の超大国の若者たちに、自らが得た「想像力の持つ重要性」という人生の教訓を贈った。
 「皆さんがご自身の影響力を発揮し、発言力を持たない人々のために声を上げることを選ぶなら、また、力ある者だけでなく無力な者たちにも自分を重ね合わせることを選ぶなら、さらには、他の人々の暮らしがもし自分のものだったらと想像する力を失わなかったら・・・。そのときは、皆さんの力添えによって現実が好転した何十億人もの人々が、あなた方の存在を祝福するようになるでしょう。魔法がなくても、世界は変えられます。そのために必要な力はすでに我々のなかにあるのです。」
 主要先進国の一角を占める日本の若者たちにも、人を思いやるための想像力があれば、飢餓や紛争で苦しむ途上国の人々を救うことができる。そのことを命がけで示したのが、アフガニスタンで農業支援をしていたNGO「ペシャワール会」職員の伊藤和也さんだった。先日、武装グループに拉致され、殺害された。31歳の若さだった。
 「子どもたちが食べ物に困らないように」と、4年8カ月間、砂漠化した農地に緑を取り戻そうと、汗を流していた。現地の服を着て丸腰で地元住民にとけ込み、子どもたちがまとわりつくほど親しまれていたという。千人もの村民が捜索に加わったことがそれを物語っている。
 伊藤さんがアフガンに関心を持つようになったのは、「空爆後のアフガニスタンの復興に関係するニュースが流れている時に見た農業支援という言葉から」だという。つまり、彼は自分の目でアフガンを見ていない。映像を通し、想像の先に困窮する農民と子どもたちを見たのだ。そして、農業短大と米国留学で学んだ農業の技術と知識を困っている人のために活かしたいと、アフガンに渡った。
 「僕の身に何かが起きたらアフガニスタンの地に埋めてくれ」との言葉を両親に残している。何の恩も縁もない遠い異国の人々のために、何が彼をそこまでさせたのか。知ってしまった以上黙って見ているわけにはいかないという同じ人間としてのやむにやまれぬ心の動きがあったのだろう。その利他の心につき従った行動力に、何物にも代えがたい尊さを感じるのは私だけではないだろう。日本人として、彼を誇りに思うとともに、自分自身に立ち返り、恥ずかしさを覚える。
 2005年3月、前年にイーハトーブ賞を受賞したペシャワール会の現地代表、中村哲医師が花巻市で講演したときの言葉が忘れられない。
 「今の日本は、『注文の多い料理店』(宮沢賢治の童話)。金さえあればなんとかなる。武力さえあれば自分を守れる。そんな世界中を覆う迷信から自分は自由。人間にとってなくしてはいけないものは何か。そのヒントをアフガンで得た。」
 私たち日本人は今、利己主義に心を蝕まれ、他者を思いやる想像力を失っていないだろうか。飽くなき欲望に駆り立てられ、贅沢な料理にありつこうとして、かえって自分のほうが山猫に喰われそうになってしまったあの注文の多い料理店に迷い込んだ2人の若い紳士を笑えない。
 ローリング氏はこうも言っている。
 「想像力を一切使おうとしない人もたくさんいます。人と共感しないことを選ぶ人々は、自分自身が邪悪な行為に手を染めていなくても、無関心な態度をとることで、そうした行為に手を貸してしまっているのです。」
 何も危険な紛争地帯に身を投じろとは言わない。海を渡らずとも、私たちの無関心によって苦しめられている人たちは身近なところにもいるのだから。志半ばに倒れた青年の無念に思い馳せつつ、合掌。




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